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「クリスマスの夜」 高村光太郎

「クリスマスの夜」 高村光太郎 わたしはマントにくるまつて  冬の夜の郊外の空気に身うちを洗ひ  今日生れたといふ人の事を心に描いて  思はず胸を張つてみぶるひした  ――彼の誕生を喜び感謝する者がここにも居る  彼こそは根源の力、万軍の後楯  彼はきびしいが又やさしい  しののめの様な女性のほのかな心が匂ひ  およそ男らしい気稟がそびえる  此世で一番大切なものを一番むきに求めた人  人間の弱さを知りぬいてゐた人  人間の強くなり得る道を知つてゐた人  彼は自分のからだでその道を示した  天の火、彼  ――彼の言葉は痛いところに皆触れる  けれども人に寛闊な自由と天真とを得させる  おのれを損ねずに伸びさせる  彼は今でもそこらに居るが  いつでもまぶしい程初めてだ  ――多くの誘惑にあひながら私も  おのれの性来を洗つて来た  今彼を思ふのは力である  この土性骨を太らせよう  飽くまで泥にまみれた道に立たう  今でも此世には十字架が待つてゐる  それを避けるものは死ぬ  わたしも行かう  彼の誕生を喜び感謝するものがここにも居る  暗の夜路を出はづれると  ぱつと明るい灯がさしてもう停車場  急に陽気な町のざわめきが四方に起り  家へ帰つてねる事を考へてゐる無邪気な人達の中へ  勢のいい電車がお伽話の国からいち早く割り込んで来た


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