「大きなクリスマスツリーが立った」 谷川俊太郎
「大きなクリスマスツリーが立った」 谷川俊太郎 キラキラ光っていて この世じゃないみたいにきれいだけど これも人間がつくったものだよ 夜のあいだに大いそぎで ビニールテープを巻いたりして 時々ビリッと感電したりして つくった人は寒くて寒くて きれいかどうかも分らなかったよ キラキラ光っていて 永久に消えないみたいにまぶしいけど いつかはこわしてしまうんだよ すぐに新しい年がやってきて これもあっという間に古くなる きれいなもののいのちは短いのさ ほんのちょっとにぎやかな気分になって あとは夢のように忘れてしまうんだ キラキラ光っているものは どうしてもどこかに影をつくる 影しか見えない人だっているんだよ 影のほうがいいとすねてる人だっているんだ そんな人にかぎってほんとうは もっともっとキラキラと明るいものに それが何かはよく分らないくせに もう泣きたくなるほどこがれているのさ<