「クリスマスの鐘」 西条八十
「クリスマスの鐘」 西条八十 鐘は鳴る鳴る、雪やみて 星うるはしきクリスマス、 古き御寺の尖塔に 花散るごとく鐘は鳴る。 通ひ馴れたる途なれど 今宵はこころ弾みつつ、 楽しく我子の手をひきて 歩む並木のアスファルト。 別れて夙も一年の、 恋しき夫も、鐘の音を こよひ独逸のリンデンの 樹蔭に聴きて在さんか。 さみしく家を守る身に かの幸福を運ぶてふ サンタ・クロスはなかなかに 今年も影を見せねども、 白き毛糸のオーバーに 林檎の頬の艶やけき、 我子を見ればしみじみと サンタ・クロスに似たるかな。 堅く抱きて、頬を寄せて、 仰ぐ御寺の塔のうへ、 淋しけれども、清らかに、 聖祭の夜の鐘は鳴る。