「クリスマスと少女」 西条八十
「クリスマスと少女」 西条八十 粉雪ふる夜のクリスマス 鐘はこもりてひびくなり、 白くねむれる街のうへ。 丘の小家の小窓をば 音なく明けし少女あり、 鐘のひびきに聴き入りぬ。 やがて乙女は嘆息と ともに悲しき祈りをば 天にむかひて呟きぬ。 「遠き昔のベテレヘム、 生れたまひし御子のごと。 こよひ悩めるわが胸に 希望を生れさせたまへ。」 「ただひとりなる御母の 病はけふも篤けれど 明日は癒えなん光ある 希望を生れさせたまへ。」 合する小さき掌、 少女は涙ながしつつ 静かに窓をとざしけり。 粉雪ふる夜のクリスマス、 神はいづくに聴きまさん、 絶えてまた鳴る遠き鐘。